どんな獣医師でも、「初めて」はあります。生まれたときから獣医師であった人間は一人もいないのです。当院の若いスタッフと話すと、私が生まれたときから「院長」であったみたいに感じている人が多くて微笑ましいのですが、勿論私にも右も左もわからない苦しい修行の時代があったことは、自分から話さない限りみんな知らないものです。

私の修行の時代は、当時としては比較的長く、7年以上は大学病院を含め場所を転々としながら多くの師匠に師事して修行をしました。臨床が楽しいと感じるには5年以上の年月が必要でした。今の自分の診療スタイルに一番大きな影響があったのは、西井先生の下で働いたときです。西井先生は現在の阿佐ヶ谷動物病院の院長として活躍されていますが、かつては彼は雇われ院長で私はその勤務医という関係でした。動物さんに対する愛情ある接し方や考え方、ご家族の心の支えになる方法など、教科書では学べないたくさんのことを彼から学びました。今でも尊敬する獣医師の一人です。若いうちにこういう獣医師としての「在り方」を学べたのはとても幸運なことでした。教科書的な勉強はいつでもどこでも自分の努力次第で可能です。             しかし、どういう仕事をしていくか、仕事に対する姿勢はどうかと問われると、勤める病院次第で大きく変わってきます。ここがよい、あそこが悪い、という単純なものではなく、自分の考えや信念に合っているかどうか、ということが重要なのでしょう。   

 そして、最初の病院でついた習慣や癖は、ずっと残るものです。細かいことですが、動物さんを片手で抱えたり、名前を呼び捨てにしたり、命令形のコマンドをすぐに使って動物さんをなんとかしようとする獣医師とは私達は一緒に働けません。それが「悪い」とは思っていませんが、私達のやり方とは「合わない」と考えています。臨床の知識や技術の向上を努力するとともに、それを如何に動物さんとご家族様に還元していけるかを考えられる人でないと当院では勤まりません。中途の獣医師を採用していないのは、医療の知識や技術はあっても、なかなかそういうマインドを持つ人材がこれまでいなかった、ということです。最初の考え方や癖が身につく「一番最初の勤務先」選びはそういう視点も必要だと思うのです。

 

院長